「EZ水」から「構造水」へ:構造水は体に良い?

Water

前回の記事では、EZ水の研究で有名なジェラルド・ポラック博士の講演内容をご紹介しました。以下に、その要点をまとめます。

  • EZ水は親水性物質の表面に薄く(1ミリ以下)形成され、他の微粒子を排除する。
  • EZ水の分子構造はH3O2で、負の電荷を帯びている。
  • EZ水は水が氷になったり、氷が水になったりするときにも形成され、水の第4の相と言える(氷・EZ水・水・水蒸気)。
  • 血管内に形成されるEZ水のおかげで血液は循環し、血流は光(特に赤外線)によって促進される。

これがEZ水の原点なのですが、ここから派生するようにして、インターネット上には「構造水」とか「六角水」という言葉が出回り、それが体に良いという記事が多く見られます。さらには、この構造水が天然水のように売られていたり、構造水を作ることができるという製品も売られていたりします。

私としては、ちょっと飛躍しすぎじゃないのかなと疑問に思う部分もありまして、今回の記事ではその辺りの経緯と信憑性について深掘りしてみたいと思います。

「EZ水」が「構造水」や「六角水」と呼ばれるようになる

ポラック博士は第4相の水をEZ水と呼んでいました。微粒子を排除する水の層(Exclusion Zone Water)という意味です。

この水の相では水分子が規則的に並び、水分子中の酸素原子が六角形に配置されることから、一般的には構造水(structured water)とか六角水(hexagonal water)と呼ばれるようになります。参考までに2つの記事をご紹介します。

The Fourth Phase of Water

命の水、H3O2:構造水の癒しパワー

理解しにくいかもしれませんが、この水の化学式はH3O2で、構造化された状態だと言えます。非常に純粋で、体にも吸収されやすい水です。なぜなら、この水の分子は自由な状態にはなく、六角形の格子状に構造化されているからです。それぞれのH2O分子はイオン結合でゆるく結ばれていますが、同時にH3O2の格子を形成しているのです。この構造化された水の分子はH2Oのように自由に動くことはできませんが、粘性が高く、細胞の基礎を作るものです。

Mandarin TechnologiesのHPより

What is Structured Water?

構造水の定義

構造水は、六角水や渦巻き水、EZ水、ゲル水などとも呼ばれ、H2OではなくH3O2という分子構造を持っています。ワシントン大学のジェラルド・ポラック博士によって発見され、液体でも固体でも気体でもない、水の第4相とも呼ばれています。通常の水であるH2Oよりも、10%密度が大きく、たくさんの溶存酸素を含んでいます。構造水は保水性に優れ、エネルギーが高く、滝や川、海、植物から動物、人間まで、あらゆる自然界に存在しています。

The Wellness EnterpriseのHPより

似たような記事は他にも沢山ありますが、これらの記事によってEZ水が構造水とか六角水と呼ばれるようになっていったことが分かります。ポラック博士の講演を聞いても、たしかにEZ水の中では水分子が規則正しく並んでいるようですし、酸素原子が六角形に配置されているので、「構造水」も「六角水」も表現としては間違っていないと思います。

英語で検索してみると、「六角水」よりも「構造水」の方が多く使われているようですので、本記事中でも「構造水」を多用していきます。

構造水は体に良い?

EZ水が構造水と呼ばれるようになり、今度はそれが体に良いという情報があふれてきます。例として、そのようなサイトを二つご紹介します。

What is Structured Water?

構造水を飲むメリット

H3O2はエネルギーと栄養の両方を私たちの細胞に運んでくれるため、六角水を飲むことには多くのメリットがあります。その人の環境や健康状態にもよりますが、体の水分状態を確実に改善してくれることでしょう。いくつかのメリットを挙げると、次のようなものです

  • エネルギー補給
  • 集中力の改善
  • 迅速な細胞回復
  • 快眠
  • 消化促進
  • 栄養吸収の促進
  • 安定した血糖と代謝
  • ストレス軽減
  • リラックス効果
  • 精神安定
  • 記憶力の向上
  • 体重減少
  • 免疫系の強化
  • デトックス効果
  • 顔色の改善や皮膚の保湿
  • 電磁波への耐性強化
  • 幸福感の向上
The Wellness EnterpriseのHPより

All about energized and structured water

構造水のメリット

1. 細胞回復

構造水は細胞内のエネルギー消費を節約する効果があるため、細胞の回復に役立ちます。六角水が十分にあれば、私たちの細胞はわざわざ構造化されていない水を使う必要がないのです。つまり、持久力とエネルギーの増加につながるということです。

2. デトックス効果

規則正しくならんだ水(構造水)は、有害な化学物質や、病気を引き起こすかもしれない不協和音周波数を体から消し去ってくれます。このため、構造水は予防医療としても役立ち、良い健康状態をもたらしてくれるでしょう。

3. 代謝とストレス応答の改善

エネルギーに満ちた水(構造水)は細胞のストレス応答を助けてくれるでしょう。臓器の調子や体の回復力からそれが分かるはずです。構造水を飲むと、以前よりも少し頻繁にトイレに行くようになるかもしれません。

4. 優れたミネラル補給効果

水は六角形に構造化された状態が最も共鳴するので、振動伝達や化学的伝達によって、水に溶けているミネラルの効果が高まります。言い換えれば、同じミネラル効果を得るのに、水や食物の摂取量は少なくて済むということです。構造水は細胞内にしっかりと水分を補給し、最適なミネラル吸収をもたらしてくれます。

Be Life WaterのHPより

構造水の効能がどのように宣伝されているのかをご紹介しました。これらを読むと、2019年のポラック博士の講演内容からはずいぶんと飛躍しているなあ、という印象を受けてしまいます。もちろん、ポラック氏が講演で語らなかっただけ、ということもあるかもしれませんので、上述したような構造水の効能を裏付けるようなデータ(証拠)はあるのかどうかを調べてみました。

根拠はあるのか?

論文検索サイトGoogle Scholarで、「EZ water」(EZ水)というキーワードを検索してみると、EZ水に関する様々な研究結果が表示されますが、ほとんどがEZ水の物理的・化学的特性を調べたもので、いわゆる基礎研究です。上述したような構造水の効能(細胞回復やデトックス効果など)を裏付けるような研究論文は一つも見つかりませんでした。

続いて、「structured water」(構造水)というキーワードで検索すると、「EZ water」よりも圧倒的にたくさんの研究論文が表示され、1960年くらいから様々な科学分野で使われてきた用語だということが分かります。この古くから使われている「structured water」は、「EZ water」と同じものではなく、それぞれの分野で便宜的に使われているような、明確な定義がされていないような印象を受けました。本題から逸れるので、ここでは「structured water」の詳細は追究しませんが、要するに「structured water(構造水)」という言葉は、「EZ water(EZ水)」よりも古くから様々な意味で使われてきたということがポイントです。

そしてこの「structured water(構造水)」については、様々な動物実験が行われてきたようです。2021年に出版された総説(過去の研究をまとめた論文)がありましたので、その要約をご紹介します。

Structured water: effects on animals(構造水:動物への効果)

Journal of Animal Science, 2021, Vol. 99, No. 5, skab063

この総説では、動物に構造水を飲ませたときの効果についてまとめます。構造水というのは、磁場や光などのエネルギーを加えることによって、水素結合の状態を変化させた液体の水のことです。ほとんどの研究は「磁化させた水」を使って行い、その水の構造は通常は短時間しか持続しませんが、最近の研究では3ヶ月半以上も磁化水を使った実験が行われたこともあります。実験室の動物や家畜を使った磁化水に関する様々な研究は、20年以上に渡って行われてきたのです。構造水を1ヶ月以上摂取した動物たちに多く見られた(3例以上の報告があった)のは、成長促進、酸化ストレスの軽減、糖尿病における血糖やインスリン応答の改善、血中脂質の改善、精液や精子状態の改善、生体電気インピーダンス法で測定したときの組織導電率の改善などです。細胞中あるいは細胞周辺の液体や分子が構造化されていることは一般的に知られていますが、このような体内の水が構造水を飲むことによって変わるのかどうかについてはまだ分かっていません。構造水が生体に与える影響のメカニズムも分かっておらず、さらなる研究が必要です。構造水を飲んだときの生体の変化というのは、タンパク質や膜のような生体分子周辺の水の構造が変化することに関係しているのかもしれません。

ここでいくつか気になる点があります。一つ目は、構造水に関する研究のほとんどは「磁化させた水(magnetized water)」を使って行われてきたということです。水を磁化させるというのは、水に人工的に磁場をかけるということで、この総説の中で紹介されていた実験では、500ガウス(G)から32400ガウスの磁場をかけていたようです。

以前に、IHクッキングヒーターの近くで磁場を測定したら、0.2ガウスくらいでしたので、500ガウスというのは、IHクッキングヒーターの近くで受ける磁場よりも2500倍くらい強力な磁場ということになりますね。医療用の核磁気共鳴画像法(MRI)は15000から30000ガウスらしいです(Wikipedia)。そんな磁場の影響を受けた水を動物に飲ませるというのは非常に残酷な気がしていまいますが、とにかくそういう動物実験が行われてきたということです。

二つ目のポイントは、構造水を飲むことによって、それが体の組織内部の水にまで影響を与えるのかどうかは、動物実験でもまだ分かっていないということです。構造水ではなく、何か別の要因が影響を与えた可能性もあるわけです。上の総説論文でも、ほとんどの研究は「磁化させた水」と言っているだけで、その水の基本的な特性(例えば、伝導率やpH、光吸収スペクトル、表面張力など)について調べていない(記述していない)ことが問題だと指摘しています。

そして最後に一番重要なポイントは、磁化させた水を使って行われた動物実験の結果が、宣伝されている構造水のメリットに非常によく似ているということです。動物実験の結果をすべて紹介することはできませんが、要約文中に挙げた主要効果以外にも、「体重の減少」、「水分摂取量の減少」、「代謝速度やエネルギー消費量の増加」、「栄養の吸収促進」、「抗酸化力の増加」、「免疫系の強化」などの言葉が、多くの研究論文で見られるようです。「成長の促進」と「体重の減少」は矛盾しているように見えますが、実験動物の種類や実験条件によって結果が変わるということでしょう。

一見、「メリット」に見える言葉が多く並んでいますが、通常このような研究(目的物質のメリットを探したい研究)では、デメリットには目をつむり、メリットの部分だけを見ながら希望的な推測をしたり結論を出したりする傾向が強いので、実験に使われた動物が生涯に渡って本当に健康的に過ごすことができたのかどうかは、甚だ疑問です。

これらの実験の信憑性はさておき、要するに人間が構造水を飲むメリットとして挙げられている様々な効能は、磁化させた水(magnetized water)に関する動物実験の結果を参考にしているのではないかと推測できるわけです。「参考にしている」と書きましたが、少なくとも私が見てきた多くのウェブサイトでは、構造水の効能があたかも人間ですでに実証されているかのように書いてありますから、もしこれが本当なら大幅な拡大解釈と言わざるを得ません。

しかしながら、構造水の種類(EZ水や磁化水など)にも色々あるようですし、すべての構造水が同じように扱われ、宣伝されているわけではないと思います。本来のEZ水の特性を正確に紹介しているサイトもあります。ですから、構造水に関する情報がすべて誇大広告だと考えるのではなく、一つ一つの情報を精査する必要があるのかなと思います。

それでは次に、この構造水が実際にどのように商品化されているのかについて見ていきたいと思いますが、長くなってきましたので、とりあえず今回の記事はこの辺りで締めたいと思います。

コメント

  1. かおり より:

    最近、6員環水というものを知り、いろいろ検索して調べていました。
    その中で、EZ水とか構造水という言葉も知りました。
    この記事は、文献を直接読み比べての考察結果を紹介してあり、非常に有益でした。
    貴重な情報をどうもありがとうございます。

  2. 飯塚昌恵 より:

    素晴らしい考察で、とても勉強になりました。情報の提供に感謝します