PFAS問題とメディア報道の目的について

今年に入ってから、PFASの問題がマスメディアでよく報道されるようになりました。

発がん性の恐れ、化学物質「PFAS」が全国の河川・井戸水から大量検出…国が対策へ(2023年4月28日)

発がん性の恐れ、化学物質「PFAS」が全国の河川・井戸水から大量検出…国が対策へ
【読売新聞】 発がん性の恐れが指摘される化学物質「 PFAS ( ピーファス ) 」が、国内各地の河川や井戸水から高濃度...

高濃度のPFAS検出各地で 広がる健康への不安(2023年9月14日)

エラー|NHK NEWS WEB

岡山・吉備中央町の浄水場で国の目標値超える「有機フッ素化合物」検出(2023年10月17日)

お探しのページは見つかりませんでした|FNNプライムオンライン
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沖縄では、2021年には報道されていました。

米軍基地周辺の水からPFOS、目標値の46倍も 沖縄県調査で検出(2021年12月)

米軍基地周辺の水からPFOS、目標値の46倍も 沖縄県調査で検出:朝日新聞デジタル
沖縄県は27日、米軍基地周辺の水質調査結果をまとめ、49地点のうち7割超の38地点で、発がん性が疑われる有機フッ素化合物...

今回の記事では、最近よく取り沙汰されるPFASの問題と、なぜ今マスメディアで盛んに報道されるようになったのか、ということについて考えてみたいと思います。

PFASとは?

PFAS(ピーファス)とは、「per- and polyfluoroalkyl substances」の略で、日本語では有機フッ素化合物(あるいは含フッ素有機化合物)といいます。簡単に言うと、フッ素が入っている有機化合物のことで、フッ素原子の数は1個でも2個でも、何個でもPFASに分類されます。

PFASは、熱に強い、水や油をはじく、燃えにくい、汚れが付きにくいなどの便利な特長を有することから様々な製品に使われていて、その種類はすでに1万種類以上(米国環境保護局)とも、600万種類以上(PubChem)とも言われています。

オルガノ株式会社のHPより
AGCのHPより

もう、ありとあらゆる物に使われていると言っても過言ではなさそうですね。

ちなみに、自然界(天然)にも有機フッ素化合物は存在していますが、これまでにわずか十数種類しか発見されていないようですので、現在の地球上に存在している有機フッ素化合物のほとんどすべてが人工的に作られた物質ということになります。

PFOA・PFOSとは?

PFOA(ピーフォア)とは、「perfluorooctanoic acid」の略で、日本語ではペルフルオロオクタン酸といいます。

一方、PFOS(ピーフォス)とは、「perfluorooctanesulfonic acid」の略で、日本語ではペルフルオロオクタンスルホン酸と訳されます。

両方とも、日本語の正式名称を覚えるよりも、PFOA(ピーフォア)・PFOS(ピーフォス)と言った方が簡単なので、メディアなどでもそのように報道されていますし、本記事でもそれらの略称を使っていきます。

両者の間には化学構造や性質に違いはありますが、かなりマニアックな話になりますし、今回の記事ではそこには触れないことにします。

PFAS(ピーファス)・PFOA(ピーフォア)・PFOS(ピーフォス)と名称が非常に紛らわしいですが、簡単にまとめると以下のようになります。

PFAS(ピーファス)・・・1万種類以上ある有機フッ素化合物(フッ素が入った有機物)の総称

PFOA(ピーフォア)・PFOS(ピーフォス)・・・特定の二種類の有機フッ素化合物

PFASの問題と健康リスク

PFASの問題点を一言で表すなら、その残存性(難分解性)です。自然界ではなかなか分解されないため、「foever chemicals(フォーエバーケミカルズ)」と呼ばれているほどで、「永久に分解されない、永遠の化学物質」という意味です。

分解されないということは、いったん自然界に放出されると、土や地下水、湖や海などにどんどん蓄積してしまうことになるわけですが、それが生物の体に入ったときにどのような影響を及ぼすのかということが危惧されているわけです。

最近、日本各地で報告されているPFAS(PFOA・PFOSを含む)の基準値超え問題ですが、上で紹介したようにPFASの起源は多岐に渡るため、その原因はケースバイケースです。個別の事例については、また別の記事で取り上げたいと思います。

PFASの健康リスクについては、国内外で様々な研究が行われていますが、ここではNHKクローズアップ現代のHPから引用させていただきます。

PFASは病気との関連が指摘されていますが、科学的な根拠(エビデンス)はまだ十分ではありません。
そうしたなかで2022年、アメリカの学術機関・全米アカデミーズの委員会は連邦政府からの要請を受けて、5000本以上の論文を分析し現在わかっていることをガイダンスにまとめました。

「関連性を示す十分なエビデンスがある」としたのは 

▼動脈硬化などの原因となる脂質異常症
▼腎臓がん
▼抗体反応の低下(ワクチン接種による抗体ができにくい)
▼乳児・胎児 の成長・発達への影響 

です。

「限定的または示唆的なエビデンスがある」としたのが

▼乳がん
▼肝機能障害
▼妊娠高血圧症 
▼精巣がん
▼甲状腺疾患または機能障害
▼潰瘍性大腸炎

です。血液中のPFASの濃度と健康リスクとの関連についてもまとめています。

1ミリリットルあたり20ナノグラムを超える状態が続くと健康へのリスクが高く、2ナノグラム未満だとリスクは低いとしています。(PFOSとPFOAを含む7種類のPFASの合計)

また、子どもや妊婦はその間の値であっても健康影響の可能性があるとしています。  

NHKクローズアップ現代のHPより

ここで取り上げられている全米アカデミーズの報告書ですが、二点補足しておきます。一点目は些細なことですが、「5000本以上の論文を分析し」とありますが、原文を見ると139本の論文です。もう一点は、「エビデンスがある」とあたかも因果関係があるように書かれていますが、これはあくまで「関連性を示すエビデンス」であって、「因果関係を示すエビデンス」ではありません。

安易にすべてを鵜呑みにする必要はないと思いますが、そうは言ってもPFASは自然界には存在しない化学物質ですから、常識的な感覚でも「体に良くない」というのは想像できますよね。

メディア報道の目的は?

ここまで書いてきた内容は、PFAS(PFOA・PFOS)に関する一般的な記事や報道を見ていれば、すでにご存知の方も多いと思います。ここからは今回の記事の本題として、「なぜ最近、メディアが盛んに報道しているのか?」ということについて考えてみたいと思います。

ボトル水の消費量を増やしたい?

日本は欧米に比べて、ボトル水の消費量が少ない国です。下の表は、ミネラルウォーターの一人当たり消費量を国別に比較したものですが、2005年に日本人は年間一人当たり約14リットルのミネラルウォーターを飲んでいて、10カ国の中で最も少ない国でした。その後、2022年までに日本人のミネラルウォーター消費量は他国に比べて大きく増加しましたが、それでも約38リットルと10カ国中二番目に少ない状況です。つまり、他の国々に比べると、日本人はボトルに入った水を買うのではなく、水道水や井戸水を飲む人の割合が多いのです。

日本ミネラルウォーター協会のHPより

これはもちろん、日本が豊富な降水に恵まれ、きれいな水を比較的簡単に手に入れることができるからです。

しかしながら、ボトル水の製造会社からすれば、これは喜ばしい状況ではありません。「水道水や井戸水は危ない、ボトル水を買った方がいい」という認識が広まって、皆がボトル水を買うようになった方が、ボトル水の製造会社にとっては嬉しいはずです。

ミネラルウォーターの国内生産量と輸入量の推移(下表)を見ますと、ここ15年くらいで海外から輸入されるミネラルウォーターの量が大きく減少していることが分かります。海外メーカーは、なんとか日本での販売量を増やしたいと思っているのではないでしょうか。

日本ミネラルウォーター協会のHPより

水道民営化に拍車をかけたい?

PFASの問題を受けて、自治体は監視体制や対策の強化を迫られます。それには当然お金がかかりますから、自治体としては水道料金を上げざるを得なかったり、あるいは値上げするいい口実になったりするでしょう。

沖縄県当局が水道供給料金を値上げへ 背景に”米軍由来”の有害物質も(2023年11月8日)

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュー...

水道管の老朽化などですでに多くの自治体が水道料金を上げてきていますが、値上げの流れは今後も続くことが予想されます。

「しれっと上げやがって」全国で水道料金上がる “10倍”予測も 老いて破裂する水道管(2023年9月27日)

「しれっと上げやがって」全国で水道料金上がる “10倍”予測も 老いて破裂する水道管【news23】 | TBS NEWS DIG
全国で水道料金の値上げが相次いでいます。「しれっと上げやがって」。20%値上げした宮城県石巻市では水道代値上げに住民から...

そして、自治体の水道事業経営が逼迫すれば、国が進めたい「水道民営化」へ向けて一層拍車がかかることでしょう。

世界の流れに逆行する日本―なぜいま水道民営化か(2018年11月15日)

世界の流れに逆行する日本―なぜいま水道民営化か(六辻彰二) - エキスパート - Yahoo!ニュース
臨時国会では水道事業に民間企業の参入を可能にする水道法改正案が成立する見込みだが、これは一旦民営化されたものが再び公営化...

環境対策として政府の予算アップ

PFASの問題が大きく報道されることによって、国としても対策に乗り出さないわけにはいかなくなります。環境省は令和6年度のPFAS対策予算として、5億円を要求しているようです。

環境省PFAS対策推進費 民間事業者・団体・研究機関等に5億円

また、米国ではすでに20億ドル(約3000億円)の拠出が発表されています。

米環境保護庁、飲料水の有機フッ素化合物PFAS削減対応に20億ドルの拠出を発表

米環境保護庁、飲料水の有機フッ素化合物PFAS削減対応に20億ドルの拠出を発表(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

日本の対策予算が米国に比べて随分少ないところを見ると、「アメリカを見習って日本もPFAS対策にもっとお金をかけろ」というような国内世論を作った上で、徐々に上げていく、という流れでしょうか。

日本にしても米国にしても、政府の予算は国民の税金によって賄われている部分が大きいので、新たな政府予算を計上するということは、その分を国民に負担してもらうということです。

問題解決に向けて何かしらの対策をしなければいけないのは確かなのでしょうが、PFAS等のいわゆる「フォーエバーケミカル」問題はすでに20年以上前から指摘されていました。それを今まで放っておいて、「今から対策していくから、国民よ、お金を出してくれ」と言うのですから、何とも呆れてしまいますね。

まとめ

今回の記事では、PFAS・PFOA・PFOSについて簡単に紹介し、なぜそれらが最近マスメディアで頻繁に取り上げられるのかについて私なりの考えをまとめてみました。

「新型コロナ」「気候変動」「戦争」など、大手のマスメディアで大きく取り上げられる話題には大抵の場合、何か「裏がある」と思った方がよく、今回のPFAS報道についてもそのような視点で見てみることが大切なのではないでしょうか。

PFASが危なくないと言っているわけではなく、何らかの規制や調査は私も必要だと思っていますが、だからと言って安易に水道料金や税金を上げられたりしたら、国民としてはたまったものではありません。まずは、削るところをしっかり削ってからにしてほしいところです。

PFASについては、引き続きもう少し記事を書いていきたいと思います。例えば、各地で報告されている基準値超えの原因を個別に考えてみたり、PFASを少しでも体に取り込まないために私たちができることを考えてみたり、いくつかの記事に分けてまとめていこうと思います。