前回の記事では、PFAS(PFOA・PFOS)の基本的な知識と、最近なぜマスメディアで頻繁に取り上げられるのかということについてまとめてみました。
今回は、PFASが実際に発生したり広がったりする原因について、10項目に分けてまとめてみます。日本各地で報道されているPFAS汚染や人間の血中からのPFAS検出が、どのような原因・経緯で起こったのかを考える際の参考になるのではないかと思います。
工場排水
工場からの排水は、世界各地で深刻なPFAS汚染をもたらしているようです。摂津市や静岡市の地下水汚染問題でも、工場からの排水が主要な原因と考えられています。
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基本的に工場からの排水は下水処理場に流れ込みますが、処理場でもPFASは除去されないので、下流域の河川や地下水が汚染されることになります。さらに、その河川水を上水として水道事業者が引き込んでいる場合は、一般家庭に供給される水道水まで汚染されてしまいます。
摂津市や静岡市だけでなく、フッ素を扱う大きな工場が近くにある場合は注意した方が良さそうです。
生活排水
あまり話題にはなっていませんが、私たちが日常的に排水している水にもPFASは含まれています。その理由は、この記事の後半で挙げる家庭内でのPFAS源をご覧ください。
生活排水も下水処理場に運ばれますが、やはりPFASは除去されないので、処理場の下流域を汚染していることになります。生活排水として出されるPFASの量は、工場排水よりもはるかに少ないと予想されていますが、私たち自身が日常的に排出しているものだという意識を持つことは大切でしょう。
泡消火薬剤
沖縄や関東の米軍基地について報道されたこともあり、日本では有名なPFAS汚染源です。
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日本国内では、2010年にPFOSを含んだ泡消火薬剤は製造終了していますが、それ以前に作られた製品には含まれている可能性があります。泡消火設備とPFOS・PFOAについては、次の資料に詳しく書かれています。
廃棄物処分場
廃棄物処分場は、PFASを含んだ様々なゴミが長期的に地中に埋められるため、雨水の浸透とともに徐々に地下水を汚染する原因になるでしょう。地表を流れる水はもちろん、地下水も基本的には上流から下流に流れますので、処分場の下流域で影響が出やすいことが予想されます。神戸市の明石川流域の調査では、産業廃棄物処分場の近くで特に高い値が検出されたとのことです。
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処分場からどれくらいの範囲まで地下水が汚染されるのかという点については、その土地の地質や地形によって変わってくるでしょう。
大気拡散
PFASは水とともに移動するだけではありません。工場の煙突などから気体として放出された場合、PFASは広範囲に渡って大気中を拡散することになります。
米国ヴァーモント州からニューヨーク州にかけて行われた研究によれば、発生源と見られる工場から上流側に15キロから20キロ離れた場所でも、土の表層や小川の水からPFOAが検出されたとのことです。水は上流から下流に向かって流れますので、工場からの排水が上流に達したとは考えられず、工場から排気されるガスに混じって揮発性のPFOA(あるいはその前駆物質)が周囲に拡散したようです。
PFAS soil and groundwater contamination via industrial airborne emission and land deposition in SW Vermont and Eastern New York State, USA(米国ヴァーモント州南西部とニューヨーク州東部における、工場からの大気放出と陸地への降下によるPFASの土壌及び地下水への混入)
同じような研究は他にもありますが、どれくらいの範囲まで影響が及ぶのかは、その時・その場所の気象条件に大きく左右されます。例えば、PFAS排出時に雨が降っていれば、発生源のすぐ近くに落ちるでしょうし、空気が乾燥して風が強い日であれば、かなり遠くまで運ばれることが予想されます。
農薬・殺虫剤・除草剤
周囲に工場や下水処理場、廃棄物処分場などがないにもかかわらず、環境中から高濃度のPFASが検出された場合は、農薬の影響も考えてみるべきでしょう。IRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)の農薬分類表を見ると、フッ素が含まれている農薬は結構あります。例えば、
スルフルラミド(日本国内販売なし)
などです。農薬(殺虫剤)だけでなく、除草剤にも含まれます。例えば、
フルフェナセット、ジフルフェニカン(商品名:リベレーターフロアブル)
です。次の中国国内の推計によれば、農薬による土壌のPFOS汚染は、大気から降下するPFOSの4倍にも上ることが報告されています。
Pollution pathways and release estimation of perfluorooctane sulfonate (PFOS) and perfluorooctanoic acid (PFOA) in central and eastern China(中国中部及び東部におけるPFOSとPFOAの汚染経路と排出量の推定)
土壌のPFAS汚染において、農薬(殺虫剤)や除草剤は主要原因の一つなのです。
ここまでは自然環境中(屋外)のPFAS汚染原を見てきましたが、ここからは私たちが家庭の中で取り込んでいる可能性があるPFASについて見ていきます。
食品容器・包装
食品容器や包装には様々なPFASが使われています。以下は研究論文からの引用です。
Poly‐and perfluoroalkyl substances in water and wastewater: A comprehensive review from sources to remediation(水と排水に含まれるPFAS:原因から改善方法までの包括的レビュー)
食品容器の素材は最も大きなPFAS源です。容器の撥水性や耐油性を上げ、食品の劣化を抑えるために、素材の表面はPFASでコーティングされているからです。そのようなPFAS容器は、ファーストフード業界でよく利用されています。紙製の食器類、ポップコーンの入れ物、カップケーキの容器、インスタントヌードルの容器、飲み物の容器、ベーキングシートなどが主な製品です。使用後は廃棄され、埋立地に埋められますが、そこからPFASを含んだ水が地下水や河川水に入っていくことになります。
Voら、2020年
その他にも、サンドウィッチの包み紙、フライドポテトやハンバーガーの容器、アイスクリームのカップなどが挙げられていました。
これらはいずれも、私たちが体に入れる食べ物と直に接しているので、体への影響も大きいと思われます。このような容器に入れられた食品や飲料を頻繁に摂っている方は、注意したほうが良いでしょう。
調理器具
フライパンや鍋、炊飯釜など、調理器具の多くがフッ素樹脂でコーティングされていることは、すでに多くの方がご存知だと思います。焦げ付きにくい、汚れが付きにくいなどのメリットがありますが、使用とともにコーティング機能が徐々に衰えてくることからも、フッ素樹脂が少しずつ剥がれていくことが分かります。
フッ素コーティングされた鍋を使って調理した場合、初回使用時よりも10回目の使用時の方が、調理後の食品からPFOA・PFOSが多く検出されたという研究結果があります(AbulFadlら、2019年)。
Impact of household cooking on release of fluorinated compounds PFOA and PFOS from Tefal coated cookware to foods(Tefal調理器具から食品へのフッ素化合物PFOA・PFOSの混入)
10回目以降の結果が気になるところですが(ほとんどの人は同じフライパンを数百回から数千回は使うでしょうから)、PFASが鍋やフライパンから食品に移っていることは間違いないようです。
飲料水
水道水に関しては、お住まいの地域に水を供給している浄水場が、どこから水を取っているのか(取水源)に大きく依存しますから、浄水場を運営している事業者に問い合わせてみるのが一番良いでしょう。
水道水を気にされている方は、ボトル水や浄水器などを使用されていると思いますが、ボトル水に関しては気になる研究結果がありましたのでご紹介しておきます。
Detection of ultrashort-chain and other per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) in U.S. bottled water(米国で販売されているボトル水からのPFAS検出)
この調査では、米国で販売されている101のボトル水製品について、PFASとその関連物質を測定した。(中略)その結果、101製品中39の製品からPFASが検出され、32種類のPFASの合計濃度は0.17–18.87 ng/L で、中間値は0.98 ng/Lだった。(中略)スプリングウォーター(Spring water)よりもピュアウォーター(purified water)の方がPFAS濃度は有意に小さく、おそらくこれはピュアウォーターの大部分(35製品中25製品)で逆浸透処理が行われていたのに対し、スプリングウォーターでは45製品中1製品しか行われていなかったためだと考えられる。逆浸透処理した製品は、処理していない製品に比べて、32種類のPFAS合計、長鎖PFAS、短鎖PFAS、ペンタフルオロプロピオン酸などの濃度が有意に低かった。
Chowら、2021年
販売されているミネラルウォーターにも、かなりの割合でPFASが含まれていることが分かります。ちなみに「逆浸透」というのは、半透膜を使って水から不純物を取り除く処理です。
化粧品・スキンケア用品・マスクなど
食品や水、調理器具以外にも、家庭内にはPFASが含まれている製品はたくさんあるのですが、影響力の大きそうなものとして、最後に化粧品やスキンケア商品を挙げておきます。
次の研究は日本の研究者によって行われたもので、「フッ素を含む」と記載された化粧品や日焼け止め、合わせて24商品(主に日本で製造されたもの)を調べたところ、化粧品(マニキュア、ファンデーション、口紅、化粧下地など)は15商品のうち13商品から、日焼け止めは9商品のうち8商品からPFASが検出されました。残りの商品は有機フッ素(PFAS)ではなく、無機態のフッ素が含まれているということです。
Occurrence of perfluorinated carboxylic acids (PFCAs) in personal care products and compounding agents(パーソナルケア製品と配合剤に含まれるペルフルオロカルボキシル酸)
ヨーロッパでも同様の研究が行われていて、メークアップ、スキンケア、ヘアケア商品などからPFASが検出されています。また興味深いことに、化粧品だけでなくマスクの分析も行ったところ、3製品のうち2製品のマスクから化粧品に含まれる以上のPFASが検出されたということです。
Are cosmetics a significant source of PFAS in Europe? product inventories, chemical characterization and emission estimates(化粧品はヨーロッパ内での重要なPFAS源か?製品リスト、化学的評価、発生量の推定)
製品の詳細は書かれていないので、どのようなマスクなのかは分かりませんが、新型コロナ問題が起こって以来、ここ3年くらいずっとマスクを着用し続けてきた人々の体内では、相当なPFAS汚染が進行している可能性もあります。
まとめ
今回の記事では、身の回りの主なPFAS源をまとめてみました。しかしながら、今回は紹介できなかった身の回りのPFAS源は、他にもまだまだあります(塗料、繊維、建材など)。
前回の記事でも少し触れましたが、現在の生活環境ではありとあらゆるものにPFASが使われていると言っても過言ではなく、PFASフリーの生活をするのはほとんど不可能と言ってもいいくらいです。あまり神経質になるのではなく、「なるべく減らす」くらいの気持ちでいた方が、楽に生活できると思います。
そんなとき、上で紹介したようなPFAS源を参考にしながら、自分が日常生活の中でどんなPFASに一番さらされているのかを考えれば、自ずと「なるべく減らす」方法や対策が見えてくるのではないでしょうか。