外来種は駆除?理科教育がもたらす人間中心主義

外来種は駆除? 生物

奄美大島のソテツから国内初確認の外来種が確認されたようです。まずはその記事の一部をご紹介します。

外来害虫カイガラムシ、奄美で国内初確認 ソテツがまとまって枯れる被害

2022年12月8日、南日本新聞社

 鹿児島県は7日、ソテツを枯らすカイガラムシの外来種「アウラカスピス・ヤスマツイ」を国内で初確認したと発表した。奄美大島で10月以降、ソテツがまとまって枯れる被害が発生しており、薬剤散布などの防除を進めている。

 アウラカスピス-は東南アジア原産で体長1~2ミリ。繁殖力が高く、ソテツの葉や幹に寄生し、汁を吸って枯死させる。人や動物への付着や風による飛散で分散しているとみられるが、近年は急速に分布を拡大。

(中略)

 6日現在の被害は3市町村で推定711本に上り、うち201本で被害葉の除去や薬剤散布をした。

 県は切り落とした被害葉は飛散を防ぐためビニール袋に入れて処分することや、被害地周辺では健全なソテツでも剪定(せんてい)を呼び掛けている。詳細は同センターホームページに掲載している。

外来種が日本国内の生態系に悪影響をもたらしているという記事ですが、同様のケースはこれまで様々な生物で報告されてきました。「外来種」や「外来生物」というキーワードで検索していただければ沢山出てくると思います。

外来種(外来生物)と聞くと、海外から日本に持ち込まれた生物という印象を受けますが、正確な定義としては、日本国内のある地域から、もともといなかった地域に持ち込まれた生物も外来種に含まれるようです(国内由来の外来種)。そして外来種の中でも、とりわけ自然環境や生物多様性を脅かすおそれのあるものは侵略的外来種と呼ばれます。

環境省:侵略的な外来種

飛行機や車、船などの往来によって、物流がこれだけ活発な時代ですから、様々な動植物(特に小さな生き物)が意図せずに移動してしまうのは避けられないことだと思います。記事では「国内で初確認」と大事のように書かれていますが、確認されていないだけで、すでに数え切れないほどの微生物や昆虫が海外から日本に入ってきていることは容易に想像できますよね。

現代の物流をすべて止めることはできませんし、人が徒歩や馬車で移動していたような時代でも、微生物や植物の種子などは人間と一緒に移動していたでしょうから、そもそも「外来種」という概念自体があまり意味のないような気がしてしまいます。物流が盛んになるにつれて、人も他の生物も移動するスピードが上がっているというだけのことですよね。

自然界の外来種を問題にするのであれば、それより先に動物園や植物園、水族館、ペットショップなどのために多くの動植物が海外から輸入されていることを問題視するべきだと思いますが、これらはビジネスなのでメディアは取り上げません。

そして一番の問題は、外来種を敵視し、駆除しようという考え方ではないでしょうか。人間以外のすべての生物にとっては、国境も県境もないわけで、自分で移動しようと思って移動してきたわけではなく、人間活動によって移動させられた生物たちです。それを人間の都合によって駆除する(殺す)というわけですから、移動させられた生物たちにとってはたまったものではありませんよね。

特定外来生物に指定されているマングース

人間の目線だけで自然を見て、人間社会にとって都合の悪い(と報道される)生物たちを安易に「駆除する」とか「殺処分する」という発想は、人間は他の生物に比べて最も進化した高等な生き物であるという優越感と、だから人間がこの世の中を管理しなければいけないという支配者意識に基づいていると思います。

他の生物に対するそのような支配者意識が、いつ頃からどのように人の心の中に巣くうようになるのか私にもはっきりとは分かりませんが、一つの要因は学校の理科教育にあるような気がしてなりません。子供たちは学校で生物の進化論を習うことによって、自分たち人間が最も進化した生物であるという優越感に浸る可能性がありますし、生物を使った実験をしたり標本を作ったりすれば、他の生物を管理・支配する感覚も身に付くでしょう。

小学生のときから何年間もそのような教育を受ければ、大人になる頃には、人間以外の生物を殺すということに何のためらいも疑問も持たなくなってしまうのかもしれません。もしそうだとすれば、子供たちへの理科教育というものを根本から見直さなければならないのではないでしょうか。