前回の記事では、5万円以下で購入できる電磁波測定器10製品を比較しました。その結果、GQ Electronics社のEMF-390が一番良いのではないかという結論に至り、実際に購入して半年以上使用していますが、本当に電磁波環境を”ある程度”正確に測れているのかどうかという不安もありました。できれば、他の電磁波測定器と測定値を比較してみたいなと思っていたわけです。
今回、世界中で最も有名なAlphaLab社のトリフィールドメーターTF2を友人からお借りすることができたので、実際の測定値を様々な場面で比較してみたいと思います。
まずは、メーカーから公表されているTF2とEMF-390の詳細情報のなかで、重要そうなものを整理しておきます。
TF2 | EMF-390 | ||
電場(EF) | 検出範囲 | 0 – 1000 V/m | 0 – 1000 V/m |
分解能 | 1 V/m | 1 V/m | |
対応周波数 | 0.040 – 100 kHz | 周波数に依存しない | |
磁場(MF) | 検出範囲 | 0 – 100 mG | 0 – 500 mG |
分解能 | 0.1 mG | 0.1 mG | |
対応周波数 | 0.040 – 100 kHz | 記載なし | |
電波(RF) | 検出範囲 | 0 – 19.999 | 0 – 9999 mW/m2 |
分解能 | 0.001 mW/m2 | 0.01 mW/m2 | |
対応周波数 | 0.02 – 6 GHz | 0.05 – 10 GHz | |
電源 | 9V アルカリ電池 | 3.7V 充電式リチウム イオン電池(USB充電) |
今回の測定に際しては、家庭用の電化製品や電気配線など(低周波電磁波)に注目するときは電場(Electric field, EF)と磁場(Magnetic field, MF)の平均的な値を、携帯電波やWifiなどの無線電波(高周波電磁波)に注目するときは電波強度(Radio frequency, RF)の最大値を読み取りました。
電波だけ最大値を読むのは、携帯電話やWifiなどの電波は常に同じ強度で発せられているわけではなく、定期的に(あるいは不定期的に)強い電波が発せられているので、その瞬間的な最大強度を知ることが大切だからです。
電場と磁場(低周波電磁波)の測定結果
まずは低周波電磁波(有線の電気設備)の測定結果です。カッコ内の数字は測定器の検出上限値で、上限値に達したため計測不能という意味です。
TF2 | EMF-390 | |||
電場 (V/m) | 磁場 (mG) | 電場 (V/m) | 磁場 (mG) | |
家庭用コンセント | 390 | 0 | 130 | 0 |
コンセントから1m離れた壁 | 230 | 0 | 90 | 0 |
充電中ノートPCケーブル | 700 | 0 | 600 | 0 |
充電中ノートPC本体 | (1000) | 5 | 900 | 5 |
デスクライト | 600 | 0 | 800 | 0 |
冷蔵庫 | 820 | 0 | 320 | 0 |
電子レンジ (OFF) | 30 | 3.9 | 50 | 2.5 |
住宅分電盤 | 370 | (100) | 65 | 250 |
テレビ | 95 | 0.5 | 62 | 0 |
エアコン(暖房) | 40 | 10 | 60 | 10 |
IHヒーター | 15 | (100) | 65 | 200 |
ラジエントヒーター | 840 | 6.2 | 650 | 11 |
この結果から分かる重要なポイントは2つです。
1つ目のポイントは、電場はEMF-390よりもTF2のほうが大きく検出されることが多かったということです(全ての場合ではありません)。例えばコンセントを測定すると、EMF-390では約130 V/mだったのに対し、TF2では約390 V/mと表示されました。
大きな数値が出れば、なんだか測定器の感度が高いような気がしてしまいますが、ここで注意したいのは、大きな値が表示されるからといって、その数字が正確とは限らないということです。実際の値よりも大きく表示されるようでは、製品としての信頼性は低くなりますし、逆に実際の値よりも小さく表示されるのも問題です。数字がどれくらい正確かということについては、現時点では調べることができないので何とも言えませんが、とりあえず言えることは、電場はEMF-390よりもTF2のほうが大きく検出される傾向があるということです。
2つ目のポイントは、家電製品によっては、TF2では検出可能範囲(上限値)を超えてしまったということです。例えば、住宅分電盤やIHクッキングヒーターを測定したときに、磁場が上限値の100 mGを超えてしまいました。EMF-390では、電場も磁場も上限値を超えることは今回計測した製品ではありませんでした。身近な家電製品であるにもかかわらず、磁場が簡単に振り切れてしまう(上限値を超えてしまう)というのは、TF2の大きなデメリットと言えるでしょう。
電波(低周波電磁波)の測定結果
次に電波(高周波電磁波、RF)の測定結果を見てみましょう。上の表と同様に、カッコ内の数字は測定器の検出上限値で、上限値に達したため計測不能という意味です。
TF2 | EMF-390 | |
電波 (mW/m2) | 電波 (mW/m2) | |
電子レンジ (あたため中) | (20) | 1100 |
Wifiルーター(隣接) | (20) | 500 |
Wifiルーター(1m離れて) | 3.5 | 6 |
スマホ | (20) | 80 |
ノートPC(動画視聴中) | 0.22 | 20 |
市街地1 | 16 | 26 |
市街地2 | 0.9 | 19 |
市街地3 | 2.8 | 4.2 |
電波の測定では、TF2とEMF-390の間には明らかな違いが見つかりました。TF2よりもEMF-390のほうが、毎回高い数字が検出されたということです。例えば、電子レンジやWifiルーターを測定すると、TF2では検出上限値20 mW/m2に達してしまい、正確な数値は分かりませんでしたが、EMF-390を使うと電子レンジからは1100 mW/m2、Wifiルーターからは500 mW/m2という非常に高い値を検出しました。また、市街地で測定した時には、TF2では0.9 mW/m2しか検出されなかったのに対し、EMF-390ではその20倍以上高い、19 mW/m2まで検出されました。
先ほど電場について述べたように、数値が高いから良いというわけではなく、その数値が正確かどうかが重要なわけですが、電波に関してはTF2とEMF-390の違いがあまりにも大きかったため、参考になりそうな情報を集めてみました。
次の動画では、アナログ信号生成器を使って1GHzから2GHz、3GHz・・・と高周波信号を発生させ、TF2とEMF-390でその電波を検出する実験を行なっています。周波数1~3GHzでは、TF2とEMF-390ともにそれ相応の電波を検出してくれていますが、4GHzになると、TF2ではほとんど検出できていません。EMF-390では4GHzでもきちんと検出しています。5GHzでも同じ傾向です。6GHzになると、EMF-390でも数値は大きく減少します。
次の動画でも同じようなテストを行なっていて、やはりTF2では3GHz以上の周波数を検出できないという結果です。
つまり、電波をきちんと検出できるのは、TF2は3GHzくらいまで、EMF-390は5GHzくらいまでということです。メーカーが公表している高周波電磁波RFの対応周波数は、TFが6GHzまで、EMF-390は10GHzまでですから、メーカーの公表値と実際に測定できる値の間には大きな差があるということになりますね。この差はまた別の問題ですが、ここでは身近な電波の周波数帯をチェックしてみましょう。
携帯電話やインターネットなどのいわゆる4G回線は、大部分が2.2GHzまで(最大3.6GHz)の周波数帯を利用しています。市街地で急速に普及が進んでいる5Gは、現在のところ主に3.6GHzから4.6GHzの周波数帯(Sub6)が利用されていて、27GHzから29.5GHzのミリ波帯も少しずつ導入が進んでいます。詳細は通信会社のHPをご覧ください。
電磁波測定器で検出できる周波数帯と合わせて考えると、
- TF2で測定できるのは、(3.4~3.6GHzを除いた)大部分の4G電波
- EMF-390で測定できるのは、すべての4G電波およびSub6(3.6~4.6GHz)の5G電波
ということになります。
今回実際に測定してみて、TF2はEMF-390より総じて低いRF値を示すという結果になりましたが、その理由はこのような対応周波数の差によるものではないかと推測できます。
低温障害?
ここまで電場・磁場・電波を比較してきましたが、両製品の違いとしてもう一点気付いたことがあったので、情報共有しておきます。ある朝にTF2を使おうとしたところ、電場と磁場は問題なく測定できるのですが、電波の表示値は非常に不安定であることに気が付きました。
詳細は省きますが、最初は何が原因なのか分からず、試行錯誤した結果、どうやら気温が関係しているのではないかということに思い至りました。寒い環境(大体10度以下)では値が不安定だったのですが、測定器を少し温めると値が安定したからです。基本性能として、アルカリ電池(TF2で使用)は低温に弱いので、そのような不具合が起こるのかもしれません。EMF-390はリチウムイオン電池を使っているためか、そのような不具合は一度も見られませんでした(リチウムイオン電池は低温に強いと言われています)。
これはあくまで私の推測ですので、もし同じような経験をされた方がいらっしゃいましたら教えていただけると参考になります。
まとめ
本記事では、TF2とEMF-390を実際に使いながら、測定値を比較してみました。その結果、
- 磁場の検出可能範囲が広い
- 電波強度の検出可能範囲が広い
- 検出できる電波の周波数帯が広い
という3つの理由だけを考えても、EMF-390をお勧めしたいと思います。
さらに、EMF-390にはTF2にない機能がたくさんありますし、それでいて価格はEMF-390の方が安いので、もはやTF2を買うメリットはほとんどないと言っても過言ではないでしょう。
結果的には、メーカーが公表しているスペックの差がそのまま現れたことになりますが、実際に使用してみることによって、どのような場面で使えるのか使えないのかが分かったので良かったかなと思います。ただし、どちらの製品も、検出できる電波の周波数帯についてはメーカーの公表値を鵜呑みにしないほうが良さそうです。
というわけで、「買うならEMF-390」という記事でした。